[91] 生気を失った老紳士を救え! 【解決編】2

 

 

ホームズ君は、Aさんに「食事が摂れないのは辛いでしょうね」と声をかけた。

 

「大きな手術と、長い入院生活。過度なストレスで気分が落ちこみ、気力を失なうのは実はよくあることです。

 

軽い抗うつ剤を服用してください。それに、脱水状態ですが、今の食欲では改善するのは簡単ではありません。

 

介護保険制度を利用して看護師さんに訪問してもらい、点滴をしばらく続けてみませんか」と提案したのだった。

 

 

うなずくのもしんどいという状態のAさんだったが、かすれた声で「ハイ」と返事が返ってきた。

 

Aさんは、抗うつ剤の効果で徐々に活気を取り戻していった。

 

少量ずつではあったが、葛湯(くずゆ)を摂れるようになった。

 

2週間目には、看護師さんの介助で入浴できた。

 

手術前に入浴して以来、実に70日ぶりの入浴だった。

 

Aさんにとっては画期的な改善、感動的な回復の一歩だったのだ。

 

倦怠感も少しずつなくなり、看護師さんが毎日訪問して点滴をしていたが、3週間目には週3回になり、4週間で週1回になった。

 

 

この頃になると、食事量も健康時の半分くらいまでに回復した。

 

その後の経過は順調だった。

 

1ヶ月を過ぎると、歩行器を使って歩けるようになり、さらに設置された廊下の手すりを頼りにして歩くようになった。

 

昼間はコタツに入ってテレビを観たりしながら過ごすようになった  

 

 

訪問診療、訪問看護を始めて2ヶ月。

 

Aさんは表情も明るくなり、すっかり生気を取り戻した。

 

奥さん、娘さんも一安心できるようになったのである

 

 

「ホームズ君。寝たきり状態のAさんが、自宅で元通りの生活に戻れて良かったね」

 

「そうだね。回復は目ざましいものがあった。周りで見ていても驚くほどだった」

 

「やはり、脱水に水分補給の点滴、そして食欲不振、気分の落ちこみには抗うつ剤といった治療が有効だったのだろうか」

 

「ワトソン君。僕は今、治療の経過を細かに見直し、カルテを何度も読み返しているんだが、

 

実はそれだけでは決してないと思っているんだ」

 

「と、言うと……?」

 

「それはね、訪問看護センターの宮崎さんを中心としたスタッフの力が、大きかったと考えているんだ。

 

Aさん本人やご家族への支援――それは心理的な励ましから始まって、日常の介護方法の指導まで、広い範囲に渡っていた。

 

本人の身体的な訴えに対しては、痛む所、しびれている所に直接手で触れ、さすったり、なでたり、

 

揉みほぐしたりしながら元気づける会話を続ける……。

 

そうした温かな接し方のすべてが、身体や心の病いを癒していったのだと思うんだ」

 

 

介護保険制度ができて、看護師さん、リハビリ職の方、ヘルパーさんという専門職の人たちが家庭内で支援をするようになった。

 

きめ細かい行き届いたケアが、家庭の中で受けられるようになっている。

 

病気のために、本人や家族が孤立しないように。

 

そして早く健康を取り戻せるように、制度を積極的に活用してゆくことをお勧めしたい。 

 

 

 

ますむら医院 院長・増村道雄

 

 

 

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