[90]  生気を失った老紳士を救え! 【事件編】

 

食欲低下と脱水症状~繰り返す入退院の原因をつきとめろ!

 

 

ある年の3月。まだ桜も蕾が固く、風や日射しも春を感じさせるには、ほど遠い日の朝のことであった。

 

 

Aさん(75才)の奥さんと娘さんが、ホームズ診療所に相談にみえた。
本人が直接相談に来ることができず、家族だけが来るというケースはよく経験することだ。

しかし、そうした場合は得てして難事件であることが多い。

 


例えば、本人が頑なに自分が病気であることを認めない。

あるいは、本人が来たとしても辺りを気遣って真実を話さないといった具合で、とにかく背景が複雑な場合が多いのだ。

当然のこととしてホームズ君としても、ことのほか慎重に話を伺う必要がある。

 



最近、特に多いのが認知症がらみの相談である。

本人に物忘れの自覚がない場合に始まって、自動車運転免許証の返納に関わるケースまで、事はとにかく単純ではない。
公共交通機関が不十分なこの地方で、軽トラックで移動している一家の主人に、免許証返納を納得して頂くのは容易ではないのだ。

 

 

車を運転せず、ご主人に通院の足となってもらっていた何人もの奥さんたちに、住まいの近くへ転医のための紹介状を書いている。
そうした時、決まって聞くのが「こんなことになるとは、思っていなかった」という言葉だ。

 


齢を重ねるということは、いろいろな場面で辛い現実に直面しなくてはならないものなのだ。

 

 

高齢の人たちのために、地域で支え合うシステムや、思いやる「心」がもっともっと必要になってゆくだろう。

ホームズ君は、そう考えている。

 



話が思わぬ方向にそれていってしまった。

いけない、いけない。Aさんに話を戻そう。

 


Aさんの奥さんも娘さんもそれぞれ表情が硬く、それだけで心に宿った「不安」の深さが伺い知れた。

 

 

「主人はP総合病院に入院していまして、退院してきたばかりなのですが……」

こう口を開いたのは奥さんだった。


「紹介状をもって来ているのですが……」

話を少しでも早く進めようとしてか、娘さんが話を継いだ。


「ゆっくりお話を伺いましょう。紹介状を見せて頂きましょうか」

時間を充分にとりますよ、安心してくださいという意味をこめ、ホームズ君は静かに応対を始めた。

 


傍で様子を見ていたワトソン君も身を乗り出し、事のなり行きに興味を示しているようだった。

 

 

 


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